昨年辺りから話題になっていたものに、リード・ナーチャリング(Lead Nurturing)があります。

個人的には非常にシンプルに見込み顧客を育成・啓蒙していくための一連のプロセスや手法を扱うものだと理解していました。個人的に興味を持っていたことに加え、いくつかの有益な記事を読むことができたので、私なりに少しまとめてみたいと思います。

リード・ナーチャリングとは

「上島の一期一会」の上島千鶴氏は「リードナーチャリングとは」及び「リードナーチャリングを行うためのクローズドループマーケティング」において、リード・ナーチャリングを次のように定義しています。

リードナーチャリングとは:案件に繋げるため、見込み顧客の育成と直訳されるが、すぐに案件に繋がらない場合、お客様が購入またはその検討時期までの期間、様々な情報を提供します、or その間コミュニケーションを取らせて頂きます、という概念。

つまり、リードナーチャリングとは「Webでのアクションを行った」、または「一度でもコンタクトがある」が、まだ購入する段階ではない「顕在顧客」が「見込み客」になるまで、コミュニケーションを取りながら関係を繋いでおくという意味。

※以上(株)Nexal提供による。

リード・ナーチャリングとSEO

私はSEOに携わる者にとってこのコンセプトは次の2点において関わってくると感じています。

ひとつは案件に対する導入です。例えば「SEO VSTW」の「リード・ナーチャリングとSEO」はそのことに着目した記事で、SEO・SEMやLPOからコンバージョンに至る一連のプロセスにおいて、コストを効率化させるための手法として紹介されています。「コールド・リード(Cold Lead=購入意欲の低い見込み客)」から「ホット・リード(Hot Lead=購入意欲の高い見込み客)」に育成していく中で、SEOの費用対効果を高めてくれるというわけです。

もうひとつは、SEOを行う個人や企業が、そのクライアントに対して行うアプローチそのものに組み込むことです。先日、「そのSEOは成果に繋がるのだろうか?」でも触れましたが、SEOやSEMといったものに関しては誤解が多い一方で、広範な合意を得ることに成功した定義が確立されているとは思えません。

例えば、SEMに関しても、検索エンジンマーケティングの総称として扱われる場合もあれば、単にPPCを指していうことも多く、対話において概念上の齟齬が生じた結果、トラブルへと発展するケースも少なくありません。こうしたSEO・SEM業界にあって、「(見込み)顧客の育成」という視点はとりわけ重要であって、リード・ナーチャリングの手法やCRMのニーズは今後ますます高まってくると考えられます。

リード・ナーチャリングの5つのヒント

Gab Goldenberg氏は『Search Engine People』に投稿した記事「5 Lead Nurturing Tips for SEO Service Agencies」の中で、SEOがリード・ナーチャリングを学び採用しなければ、非常に不利であるといい、ローカルのSEO向けにそうしたリード・ナーチャリングの5つの手法を解説しています。

5つの手法とは次のものになります。

1. 具体的な目的への照準

Goldenberg氏によるとリード・ナーチャリングをキャンペーンとして行う際には、何を目的としているかについて、より具体的な目標を設定し、そこに狙いを定める必要があります。

例えば、それがリピーターの獲得を主眼としているのか、新規クライアントへの一連のアプローチを目指しているのか、あるいは同業他社からの乗り換えを促す方向へ向かうのか、といった風に具体的な目標を定めることで、リードナーチャリング・プログラムはより継続的になりますし、プログラムが目標に対して合致しているのかを判断する材料にすることもできるようになるでしょう。

2. 関心を引くニュースレターとの接触を保つ

Goldenberg氏はニュースレターを作成し、見込み顧客に自分たちが行っていることに対する継続的な理解を促し、彼らを教育する機会を提供することが重要ですあると説いています。

このニュースレターというのは必ずしも、ニュースレターには留まらず、見込み顧客との接触を維持するメディアであれば良いのではないかと思います。おそらく、ブログやSNS、フォーラムやCRM的システムといったコミュナルあるいはソーシャルな活動もまたここでいうニュースレターの役割を担うことになるのではないでしょうか。

3. 小さな育成プログラムを始め、時間をかけてそれを発展させる

リード・ナーチャリングは目標を絞って、じっくりと取り組むことが必要だと思われます。逆に大規模に時間と資金を投資したとしても対象を圧倒してしまい、結果的に潜在的な顧客を失ってしまいかねません。Goldenberg氏はそのことを次のように表現しています。

One of the biggest mistakes that SEO businesses make is implementing an aggressive lead nurturing program that tries to do too much too quickly. You don’t want to overwhelm leads ? that’s a one way ticket to the ‘junk’ folder when your name appears in the “From:” line.

SEOビジネスにおける最大の過ちのひとつは、あまりにも多く、あまりにも急いで行おうとするような強引なリード・ナーチャリング・プログラムを実行することだ。見込み顧客を打ちのめしたいわけじゃないんだろう? 「From」の場所にあなたの名前が現れた時には、それこそが、「ジャンクメール」フォルダ行きの片道切符になるんだ。

4. 執拗なセールスの代わりに情報を提供する

Goldenberg氏はコンテンツを有益(informative)なものにしておく努力は重要であり、またターゲットにしている見込み顧客が読みたいと思う種類の情報を備えていることの重要性を説いています。具体的なセールスを行うより、自分たちが専門家であり、その発言や情報が適切かつ有益であると示すことが重要になることは多々あります。

問題になるのは「執拗な」セールスであって、セールスそのものが駄目というわけではないでしょうし、また見込み顧客が読みたいと思う情報といっても、耳触りの良い情報や、虚偽や誤りを含んだ情報であってはならないでしょう。必要なのは、セールスとは別に、長期的なアプローチを通じて、信頼を獲得していくことであり、そのために顧客視点に立った上で、専門的かつ分かり易い情報を提供できるよう努めることなのでしょう。

5. ローカルの見込み顧客をターゲットにする

見込み顧客に対してローカルな特色を考慮したアプローチを行うことが重要だとGoldenberg氏は説明しています。

ローカル視点を組み込むことで、見込み顧客に対し、対象となる顧客の地域的な事情に精通していることを示す一方で、その文化的な背景を理解していることを示すことによって信頼性に繋がる可能性も考えられるでしょう。同氏は「見込み顧客のタイプによっては産業や立地、その他の属性に細かく分けて行うこと」の重要性を説いています。

ここで使用されている言葉は「ローカル」ですが、私はローカルというよりも、より広範に「文化」という視点から考えた方が良いのではないかと思います。見込み顧客のリテラシーや総合的な傾向、地域、歴史、ナショナリティやエスニシティ、職業や言語、嗜好、宗教等、最優先して考慮する可能性のある事柄は必ずしもローカル化しているわけではないのではないでしょうか。

Goldenberg氏は一方で、見込み顧客が、特定の顧客層を基盤にしているのであれば、見込み顧客だけではなく、その見込み顧客がターゲットにしている顧客層にまで理解を示す必要があるとしています。

リード・ナーチャリングの視点を検討することの重要性

上に挙げられている5点はいずれも、とりわけ意識することなく多かれ少なかれ、採り入れられているか、あるいは考慮されていることだと思われますが、これらを意識しておくことはとても重要だと思われます。

また、費用対効果の観点から、かならずしも全てを卒なく実践することが難しいこともあるでしょう。とはいえ、業界が成熟し、新規顧客の獲得がそれまでよりも困難になる場合は、取り組まざるを得なくなる場合もあります。可能な限り早くからこれらの視点を検討し、採り入れられるところは採り入れることで、ノウハウを蓄積してくことは決して無駄にはならないのではないでしょうか。